【CREATORS TALK】インハウスデザイナー対談:デザイナーが語るマネックスグループとコインチェックのロゴリニューアル
みなさま、こんにちは!今回のnoteでは、マネックスグループのデザイナー山口祐樹さんとコインチェックのデザイナー唯根隼人さんのクリエイター談義をお届けします。両社ともに昨年2023年にコーポレートロゴをリニューアルしており、このリニューアルをテーマにお二人に対談してもらいました。
マネックスグループとコインチェックは共に社内にデザイナーがおり、ブランドマネジメントに大きくコミットしています。インハウスのデザイナーがどのような活動をしているのか、対談を通じてお届けします。
プロフィール
山口祐樹 (マネックスグループ株式会社 デザイナー)
2007年マネックス証券に中途入社。UI/UXデザインに従事し、2019年にマネックス証券内にデザインセンターを設立。マネックスグループおよびマネックス証券のブランドの啓蒙活動や管理・運用を行う。
唯根隼人 (コインチェック株式会社 マーケティング室 デザイナー)
2022年よりコインチェックに中途入社。ブランディングを軸にデザインとディレクションに従事。
最初に、ロゴリニューアルの経緯を教えてください。
山口:マネックスグループにはグループ各社にロゴマークがあり、マネックスグループとして管理統一が難しいという課題がありました。種類・パターンも多いため、社員が都合が良いように使ってしまい、残念ながら間違った使い方も散見されました。2023年よりスタートした新しい執行体制のもと社内外の環境変化に適応し、当社グループの持続的かつ長期的な成長を実現するため、2023年6月にリニューアルしました。そして新ロゴの誕生と共に、ブランドガイドラインを制定し社内に展開しました。
唯根:旧ロゴは2016年から使ってきましたが、事業規模も大きくなり、個人の暗号資産ユーザーさまに加えて、IEOやINOでご支援するパートナー企業も増えてきました。そこで、ロゴの視認性を向上させ「暗号資産取引サービスのリーディングカンパニーとしての信頼度を高めること」を目的にロゴをリファインすることになりました。
そうした経緯もあり、今回のリファインでは、大幅な変更ではなく、これまでの印象を継承しつつブラッシュアップすることに重点を置きました。同時に、クリエイティブ品質を維持するためブランドガイドラインを一新し、現在は、新しいガイドラインに沿ってクリエイティブをコントロールしています。
コーポレートロゴの特徴とリニューアルのポイントを教えてください。
山口:マネックスグループのスタートは、1999年の「マネックス証券開業」にさかのぼります。マネックスは今までの金融にはなかった「インターネットで株の売買ができる」という新しい体験を世の中に広めてきました。一般の人がアクセスしづらかった金融をインターネットによって身近なものにしてきました。
日本を代表するデザイナーである松永真(まつなが・しん)先生に作っていただいたシンボルデザインは、どっしりと大地を踏みしめた人間が両手で大きく円を描き「人間を主役としたお金のネットワーク」を表現しています。インターネット専業証券であるマネックス証券が「人間」をモチーフとしたのは、私たちが、お客様とともに歩み、成長していく会社であるからにほかなりません。
このシンボルマークは一歩大きく踏み出す姿をしていて、一歩踏み出すという私達の態度を表現しています。私たちはこの一歩を「Giant Step」と呼んでいます。人類で初めて月面に立ち降りたアームストロング船長が残した名言「自分にとっては単なる一歩だが、人類にとっては偉大なる一歩だ」に由来があります。
話は2023年のロゴリニューアルに戻りますが、今回は書体を変更しています。昨今のデジタル化の流れに対応し、デジタルのクリエイティブで、より今の私たちらしさを表現できる書体へリニューアルしました。私は、時代に合わせて変化していくことと、”らしさ”を貫くバランスが大切だと考えています。
今回のリニューアルでは、見た目は大きく変えず、今までもこれからも愛してもらえるロゴであることを念頭に置いて書体のみ変更しています。デジタル環境にも、より馴染むものにアップデートしました。
唯根:今回のロゴリファインのコンセプトは「解体と再構築」で、旧ロゴからデザインを大きく変えないのが最大のテーマでした。今まで積み上げてきたコインチェックのイメージや親しみやすさを大切にしたいと考えました。まず、古いロゴの要素をすべて分解して、リニューアルの方向性を整理しました。その後、シンボルマークは黄金比をもとに整え、タイプフェイス(フォント)のカスタマイズを行い、最後に色を選定しました。
今までの印象も損なわず、強さと繊細さのバランスを熟考しながら微調整を行いました。日々使うプロダクトとして、日常に溶け込んで馴染んでいくものを目指しています。
山口:デザイナーは文字と文字の空間をとても気にしますよね。 1ピクセルの揺らぎにこだわって調整されたんですね。ホリゾンタル(横組みロゴ)とバーティカル(縦組みロゴ)、それぞれの正解がありますね!
コーポレートロゴについてデザイナーとして大切にしたいところを教えてください。
山口:マネックスのロゴが生まれた背景・ストーリーは本当に素敵で、これからも大切にしていきたいんです。入社年次に関わらず、これらを伝えて理解してもらえるように社内で醸成していこうと折々でコミュニケーションしています。
また、ブランドのトンマナを統一するためにロゴが正しく使われているかを管理することは必要ですが、厳しく取り締まることで権威化するよりは地道に草の根運動をしようと考え、ロゴの使用方法についてケースごとに理解できるよう丁寧に社内に伝えています。ロゴマークはみんなで使い、育てていくものではないでしょうか。
唯根:個人的に組み直す作業が得意なこともあり、コインチェックの新ロゴは、様々な数値に当てはめることで、整然とした美しさを追求できたと考えています。
山口:美しいと感じる時、審美的な観点もありますが「構造的な美しさ」は絶対的なものがありますね。レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとして、長い歴史の中でロジカルな美しさが私たちの身の回りに浸透していますね。
ロゴリニューアルをデザイナー観点でどのようにご覧になりましたか?
山口:唯根さんの手掛けられた仕事をみて、変えていい所と変わらない所をしっかり区別して最適化を追求されていて、丁寧な仕事をされていると感じました。違和感があるようなないような空間の制御、たたずまいのコントロールが素晴らしいです。
唯根:デザイナー目線で言うと、日常的に「違和感があるか・ないか」をまず見ています。全体的なバランスや重心のとり方も観察しています。
山口:コインチェックのロゴといえば、会社名を構成するアルファベットに「c」や「o」など小さい丸が多くてコロンコロンとしてリズム感がいいですよね!ロゴ末尾の「k」は文字のバランスがとりづらいのではと思うのですが…
唯根:そうですね、バランスを熟考しました。ちなみにですが、「i」も絶妙なところで、今回のリニューアルで玉を少しだけ大きくしているんです。文字1個1個を分解していく作業は大変ですが、とても大事ですよね。
マネックスとコインチェック、ともにインハウスデザイナーがいるわけですが、インハウスデザイナーの役割やインハウスデザイナーがいることのメリットは何でしょうか?
山口:デザイナーは専門職ではありますが、デザインはデザイナーだけのものではないと考えています。自分ひとりが美しいクリエイティブを作れることも大切ですが、社員一人一人の意識の底上げやデザイン能力を引き出すことが重要です。社員が使うパワーポイントやグラフのテンプレートを作るなど、社員のデザイン素養を引き出す触媒になりたいと考えています。こうした活動を2018年にスタートしてブランド説明会も実施、これまで4-5年かけて草の根運動を進めてきました。知識と技術の両輪で全社的なクリエイティブの質を高めていきたいです。
唯根:2022年の入社以来、どういう形でインハウスのデザイナーとして会社に貢献できるかを常に考えています。長期的にプロジェクトに携わるのはもちろんですが、様々なパターンを模索する過程で、スピード感を持って仕事を数をこなすことも心がけています。私はクリエイティブを担当していますが、社内には私のほかにプロダクトのUI/UXデザイナーが複数名おり、彼/彼女たちと意見や情報交換しながら業務を進めています。また、少し落ち着いたところで、来期からは新しい仕組み作りなどデザイン領域以外にも挑戦できたらと考えています。
インハウスデザイナーとしてのこれまでの仕事で印象に残っているものを紹介していただけますか。
山口:2018年4月にコインチェックがマネックスにグループ入りした際、会見で使うキービジュアルを作りました。ネガティブな印象をニュートラルに、そしてポジティブに切り取ってもらえるよう、さわやかなクリエイティブを準備しました。会見の写真がメディアで拡散される中で、コーポレート領域でのデザインの可能性を感じました。マネックスオリジンではないコインチェックがグループに加わったこと、その意思をどのようにマージするのか、次のあるべき姿を模索することに使命感を感じました。
唯根:これまでの広告業界のキャリアを活かして、TPOに合わせたクリエイティブを心がけています。ブランドイメージを守りながらも、キャンペーンのバナーやイベントの告知物、アプリ内メッセージ、それぞれの最適解があると信じています。
編集部:山口さん、唯根さん、ありがとうございました。マネックスとコインチェック、ふたつのブランドの成り立ちと、それを支えている想いと取り組みの一端を知ることができました。また、自分たちのブランドを自分たちのものとして意識できることはインハウスデザイナーがいることの良さだと感じました。ふたつのブランドを、お客様をはじめステークホルダーの皆様と一緒に育てていきたいと改めて思いました。本日はどうもありがとうございました。
(本対談は2023年12月18日に行いました。)