コインチェック株式会社のアジャイルの取り組み
はじめまして。コインチェック株式会社のクリプトリサーチ・プロジェクトマネジメントグループの小林真己です。
普段は暗号資産関係のプロジェクトマネジメントやリサーチを行いながら、スクラムマスターとしても活動しています。
当社は2023年上半期からアジャイル推進活動を始め、およそ1年が経ちました。現在ではScrum Allianceの認定スクラムマスター3名、Scrum.orgのプロフェッショナルスクラムマスター1名をはじめ、様々なメンバーやチームがアジャイルを体現するために活動しています。
この記事では、当社がアジャイルスクラムを推進している背景とその取り組みをご紹介します。
また、今後も定期的に当社のアジャイルの取り組みをご紹介する記事を公開しますので、当社に興味のある方や、自組織にアジャイル・スクラムを導入したいと検討している方の一助になれば幸いです。
スクラムを導入した背景
当社、コインチェック株式会社は暗号資産の取引所を運営する会社です。
暗号資産業界の流れは早く、当社を取り巻く外部環境は、事業側も開発側も目まぐるしく変化します。
事業側の変化には例えば法律があります。例えば2023年には、暗号資産が犯罪に利用されるのを防ぐ目的で、トラベルルールと呼ばれる法律が施行されました。これは暗号資産の移転先に送付人の情報の通知を義務付けるものです。このような法令対応には多くの部署が関与するため、多大な労力がかかります。
開発側の例は、暗号資産自体のアップデートです。当社は数十種類の暗号資産を扱っており、それらのほぼ全てを自社で開発したシステムで管理しています。そのため、暗号資産にアップデートがあるたび対応が求められます。基盤となるブロックチェーン自体が別のもの切り替わるなど、全く異なる仕様へのアップデートが必要になることもあり、これもまた多大な労力を要します。
これらはほんの一例ですが、我々が多方面の変化への対応が求められる中で活動していることがお分かりいただけましたでしょうか。
従来の当社では、各部署から担当者をアサインし、プロジェクトチームを組成してこれらへの対応を行なっていました。
しかし、このプロセスではいくつかの課題が浮き彫りとなりました。
迅速な対応の難しさ
法改正やシステムアップデートへの対応には、迅速な意思決定とリソースの配分が求められます。しかし、従来のプロセスでは意思決定者が曖昧であったり、上層部までエスカレーションが必要なために、適切な意思決定やリソース配分を迅速に判断できない場面がありました。部門間の連携不足
法令対応や技術的な課題解決には複数の部署が関与するため部門間の連携が重要です。しかし、各プロジェクトメンバーが所属する部署によってタスクに対する認識が異なるなど、情報の共有や意思疎通がスムーズにいかないことが課題となっていました。プロセスの硬直化
従来のプロセスでの振り返りは、プロジェクト終了後もしくは四半期ごとなど、長いサイクルで行われていました。これでは状況の変化に応じた改善が難しく、取り巻く状況の変化に対して柔軟に対応できないことが課題となっていました。
そこで導入を検討されたのがアジャイル(スクラム)です。なぜならスクラムには次のようなメリットが期待できるからです。
柔軟な対応力
スクラムチームは、意思決定の権限が委譲された自律型組織です。スクラムチーム内で意思決定ができるため、上層部までエスカレーションせずに現場で迅速な意思決定ができ、リソースの配分も現場の状況に応じて柔軟に行うことが可能となります。部門間の協力強化
スクラムではスプリントレビューなどのイベントを通じて、チーム間だけでなく関係部署とのコミュニケーションも密に行えます。また、プロセスの透明性を柱の一つにしていることからもわかるように、他部署から見て状況の把握がしやすくなります。継続的な改善
スクラムのプロセスは、定期的な振り返りによって常に組織の改善を図ることができるため、組織全体の成長と適応力を高めることができます。
こうして、当社にスクラムが導入がされていくこととなりました。
コインチェック株式会社のスクラム
2023年初めに先述の内容が当社CTOから示されたことを皮切りに、当社には3名の認定スクラムマスター(Scrum Alliance)および1名のプロフェッショナルスクラムマスター(Scrum.org )が誕生しました。
組織も事業部制を採用し、コンポーネントチームから一部をフィーチャーチームとして独立させることでプロダクトに対する意思決定の迅速化を図っています。また、各チームにスクラムマスターを配置し、スクラムの導入を進めています。
コインチェック株式会社にはブロックチェーンとのやりとりやユーザーの資産の管理といったインフラを管理するコンポーネントチームがいます。リソース的にもセキュリティ的にもこのチームをフィーチャー化することは難しく、そのため部署横断プロジェクトは従来通りプロジェクトチームを組成しています。ただし、スクラムチームメンバーのタスクは各スクラムチームのバックログとして管理され、透明性を保っています。
各チームで行うアクティビティや、抱える課題は異なるものの(今後の記事でご紹介します!)、同じフレームワークで開発を進めています。つまり、2週間のスプリントの中でスクラムイベントとリファインメントを実施しています。
さらに、私たちスクラムマスターをはじめとする有志でアジャイルに関する勉強会を開催し、アジャイルコーチとしてのスキルアップも進めています。例えば週一の輪読会では、発表会形式で書籍の内容について議論を交わしています。以下に、過去に輪読会で取り上げた書籍の一部をご紹介します。
成果とこれから
これらの活動を通し、当社にアジャイル・スクラムの共通言語が根付いてきたと実感することが度々あります。
エンジニア同士の会話で「ストーリーポイントが、、」という議論する声が聞こえたり、新しくスクラムチームにジョインするメンバーには「こんなに厳密にスクラムをやっている会社は初めて」と言われたりすることがあります。
今後は認定スクラムマスター・認定プロダクトオーナー、認定ディベロッパーの人数を増やし、このアジャイルの活動を拡大する方針です。
今後の発信に期待してお待ちください。